【文スト】Vanilla Fiction【江戸川乱歩】
第2章 冬
「……む、無関係、って、どういうことですか」
「そのまーんま。年に一度起こる〝ヴァレンタインの悲劇〟は逮捕した男の仕業で間違いない。けど、五年前の事件だけは別だ。そもそも毎年起こるようになった事件の発端と思われていたのが五年前のそれ。ここ最近の犯人は触発されて四年もの間ヴァレンタインを血塗れにしてきたってだけだ」
至極退屈そうにため息をついた糸目を、成美は怪訝そうに見つめた。警察の資料の内容を知っているのだから信用しても大丈夫な探偵であろうということはわかった。
それでも、成美は今朝の報道を目にした。新聞には、たしかに書いてあったはずだ。
「犯人は〝五年前の事件への関与をほのめかしている〟んじゃないんですか?」
「あくまでほのめかしているだけだよ。大方、〝はじめの事件〟を自分のものにしたいけど、やってもいない罪を認めるのには抵抗があるんだろう」
まるで見てきたかのようにつらつらと言葉を並べたてる眼前の男は正しすぎるようで。嘘のようで、疑ってしまう。はっきり言って、胡散臭かった。このまま丸め込まれたら、恐ろしいことが待っている気がした。
「それは、本当、ですか」
「勿論だとも! 僕は至上の名探偵だからね!
──嘘がわかる」
「……う、そ、が?」
「そう。だから五年前のことや犯人の心当たりの有無を直接君に訊けば、君の反応から何かわかるかもしれないと踏んだ。でも何もわからない。
君、──異能力があるね?」
ひゅ、と喉奥から息が漏れ出る。予想外だった。わけがわからなかった。それほど、目の前の薄気味悪い男は〝至上の名探偵〟だった。なんで、どうして。
──ばれるわけがないのに。
「──どうして、」
「この僕が見て何もわからないなんて有り得ない。唯一有り得るとしたら、僕のものとは違う異能が働いたことしか考えられなかった」
──嗚呼。
「僕は江戸川乱歩。よぅく覚えておくといいよ、至上の名探偵の名だ。そして異能力は〝超推理〟。僕にわからないことはない」