第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
イルミの実家が営む稼業が何であるのか、幼い頃はよくわからなかったが今ではユイなりに理解しているつもりだ。
地元を本拠地に都内でも水商売や風俗店を展開経営するある種の企業、その筋の人間にすれば有名な一族らしかった。イルミ本人が自ら戦力として働いているのも別におかしな話ではない。
まだ時間があるから、と腕時計を見た後に告げるイルミに連れて来られたのは その場から遠くない喫茶店だった。
「コーヒー1杯1000ジェニーもするの?!高い!さすがハワージェラル……」
「パドキアにもこれ位の価格帯の店はあるし、ここにも100ジェニーで飲める店舗もあるよ」
「そうなの?」
「どれだけ世間知らずなの」
盛り上がるとは少し違うが 立ち話で終わらせるには話題が溢れ、こうしてお茶をすることになったのだった。イルミは席に着くなりウェイトレスが持ってきたメニューを見もせずに それをユイに手渡した。
「コーヒーでいい?」
「あたしコーヒー苦くてちょっと苦手…」
「そうなの?ならなにがいいの」
とりあえず、手元をメニューを開いてみた。
「ん~ロイヤルミルクティー美味しそう。あ、でも1500ジェニーもするの?!もはや食事以上だよこの値段…」
「いいよ なんでも。誘っておきながら金出させたりはしないから」
「でも…」
ブレンドとロイヤルミルクティー、とイルミはあっさり注文を終えてしまう。
見知らぬ人や友人と金の貸し借りをしてはいけない とはユイの母親の教えであるし 奢ってもらうこと自体がユイには申し訳なくもいけない事にも思えた。
「……いいのかな」
「なにが?」
「その、ご馳走になってしまって」
「昔からそんなに謙虚だったっけ、よくミルキとおやつ取り合ってなかった?」
「だってミルキは1人で全部食べちゃうんだもん。それにイル兄の家のお菓子 高級品で美味しかったし」
「まあいいよ。今日は久しぶりだし再会祝いって事で」
この街には心配性の母もいないし相手はよく知る幼馴染である、ありがとうと礼を述べ 所望する飲み物を待った。
ブラックコーヒーを音も立てずに啜るイルミの向かいで 砂糖のたっぷり入る甘い紅茶を飲みながら、立ち話の続きをした。