第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
「どこまで着いて行く気なの」
いつの間に近付いたのか、自分でも目の前の男でもない第三者の声が 違う角度から落ちた。そちらに目を向けると そこには懐かし過ぎる人物がおり、ユイは無意識のうちに瞳を大きくしていた。
「普通に考えてさ、声掛けられたからってホイホイ着いて行くかな」
久々且つ唐突過ぎて、リアクションに困ってしまった。記憶と比較すれば 髪型や服装は随分変わっていても 個性ある瞳の色は健在であったし、誰なのかは声色からもすぐにわかった。
「まさかそのまま得体の知れない場所に入ろうって言うんじゃないよね」
全身を黒で固めたイルミにじっと見下ろされる。
歳は少し離れているが 二人の関係は近い表現でいえば“幼馴染”というのが適切だろうか、親の仕事も財産も家族構成もまるで違うのだが 物理的に家が近いという唯一の事実が両者の接点を作り出したのだった。
スカウトの男は妙な雰囲気で見つめ合う2人を見ていた。
「こいつキミの知り合い?」
「…ええと、…」
「ほら行こうよ!契約金や報酬やその辺の話もしたいし」
「あ、うん、はい」
「スカウトされる要素がどこにあるっていうの。上から下までよく見てみなよ パーツモデルにすらなれないと思うけど」
ユイに声を掛けた男はギロリとイルミを睨む、あからさまに形相を変え威嚇する態度で舌打ちをした。
「邪魔すんじゃねえ。そのナリじゃホストか?女に媚びて金もらってる分際で」
「まあ そこは否定しないけど」
「カッコつけてんじゃねーよ。目障りだ 失せな」
「言われなくても。そのコ回収したらね」
「消えろっつってんだけど?!!」
「喚くなよ 煩いな」
さらに、改めて、都会はすごい所だとしみじみ思う。映画シーンさながらな一触即発な様子が目の前で繰り広げられている。この街ではこんなことは日常茶飯事なのだろうか。
さらに驚くのは、すっかり都会の街に溶け込み一人だけ涼しい顔をしている人間は ユイの知り合いだということ。背中にヒヤヒヤ冷たい空気が通るようだった。