第2章 同業者/夢主は元お客様
「……おや♡」
ここは先ほどのキャバクラ店内だ。
移動するのも面倒なので ヒソカはもう一度 先程と同じ店で飲んでいた。ヴーヴー鳴る携帯電話の画面を見ながらも 全く出ようとしないヒソカを見上げながら、ルナは探るような声を出した。
「……ヒソカ、電話出ないの?」
「代わりに出てあげて」
「え」
通話をタッチした後、眩しい携帯電話を嬢の耳元にあてる。そこからはよく知る声が漏れてきた。
「出るの遅。ヒソカ今どこ?」
「……、なんだ イルミかぁ」
「その声ルナ?やっぱりそこでまだ飲んでたんだ。ねぇオレもこれから戻るからリオン呼んでおいてよ」
「んー、あー あのコ早めのアフターらしい。代わりに他のコ呼んでおく?」
「なんだ 慰めて貰おうと思ったのに。じゃあいいや、今日はルナにつける」
飲みに行く店舗はいくつかあるが 毎度マニュアル化された挨拶からスタートするのではたまったものではない。同業故に暗黙の了解で、互いの店を行き来した時 隣に座らせるのは1人と決めている。
すぐに切られる携帯電話を持ち主に返し ルナは、ヒソカに興味の目を近付けた。
「イルミは本カノの所行ったんじゃなかったの?」
「詳しくはボクも知らないけど。…喧嘩でもしたんじゃない?」
「まぁいいや。とりあえずラッキー」
ルナは猫目を細めてクスリと笑い、深いスリットから覗く脚を器用に組み替えた。
「イルミやたらお酒強いから今夜はガンガン飲ませてあげよ……。ヒソカ、ヤキモチ妬かないでね?」
「さっきの嘘だろ。呼ばないの?リオン」
「呼ぶワケないでしょ」
「コワイねぇ オンナって」
「オトコ程じゃないと思うけど?」
互いに含みを持たせながら見つめ合う。
同業者同士だと丸々全てを作り込む必要はなく、このようにさらけ出せる事柄がいくつかある。それは気楽であり舐め合いであり、時々は取るに足らぬバカなやり取りでもある。
ヒソカは手元に残る酒を飲み干すと、席を立った。
「イルミにヨロシク」
「え、ヒソカ帰っちゃうの?」
「ボク愚痴には興味ないし」
まだまだ素面に近いヒソカは、ルナに諭すような口調で告げた。
「それを聞いてやるのはキミの仕事だろ」
fin