第2章 同業者/夢主は元お客様
ザワザワ騒がしい店内にはタバコと甘い香水の臭いが充満する。
もしかしたらそれはこの店のせいではなく 自身らが散々女性の相手をしてきた仕事上がりであるからかもしれない。仕事の後、時々はこのように同業店へ飲みに行く事もあるわけだ。
スーツの胸ポケットで震える携帯電話が振動を伝える、イルミは躊躇なくそれを取り出し 明るく光る画面に目を向けた。
「誰だれ?もしかして彼女?」
「やだぁ イルミ彼女いるの?」
ボックス席に座る嬢達が甲高い声を出してくる。その勝手な推測を促すように 向かいに座るヒソカが喉から低い声を出した。
「最近妙~にマメだよねぇ……色営業以外にも」
「別にそんなんじゃないよ」
「ウソ。それ私用ケータイだろ」
「たまたまなだけ」
さらりとヒソカをかわし イルミはその場で返信を始める。イルミの隣に座るのはこの店に来ると必ず指名をするキャバクラ嬢のリオンだ。
互いの関係は共依存、といえば正しいだろうか。リオンはリオンで 飲みに来てくれる際は必ず自身を指名してくれる。表面上は恋人同士にも似たギブアンドテイクとも言えるかもしれない。リオンは相変わらずの可愛らしい声を出す。
「えぇ~まさかほんとに本カノなの?前にホストやってるうちは本物作らないって言ってなかった?」
「言ったよ。」
「ホストは彼女なんか作んない方がいいよー」
「だからそんなんじゃないってば」
イルミはさっさと返信を終え 携帯を胸ポケットに放り込む。
それを見届けた後 媚いる顔をしたリオンはグラスを手に取り それをイルミに差し出した。カランと氷が揺れる音がする。
リオンは大きく開いた胸元を見せつけるように身体をくねらせ 愛らしく擦り寄ってくる。その挑発的な瞳を上目遣いにし、下からイルミを見上げた。
「……チョット矛盾してるようだけど イルミならアタシ本気で付き合ってもいいかも」
「思ってもないクセに」
「そんな事ないよ。同業だから共有出来る苦労や感情もあると思わない?」
「まぁ なくはないかもしれないけどね」
興味なくそう言うイルミは グラスに入る酒を半分程飲んだ。
それを満足気に見つめ リオンはますます身体を寄せる。背筋を伸ばしイルミに顔を近付け、耳元で誘う声を出す。