第21章 一世の契り * 帰蝶
「やっ…ぁあっ、あっ……!」
ザァァァァ……
激しい雨の音に嬌声が混じる。
てっきり、全てかき消してくれると思ったが。
「帰蝶、さ…っ帰、蝶、さ……っ!」
美依の声の方がはっきり聞こえる。
やたらと耳につく。
お前が呼ぶ、俺の名が。
この甘露の味も、中毒になりそうな程だ。
ひどく癖になる。
もっと感じたいと思うくらい。
────俺の方が魅せられてるのか
ぽつん、と心に染みが広がる。
じわりとそれは蝕んで……
鮮やかに煌めくような感覚を覚えた。
さっき感じた蜜な感情の正体か。
美依の魅力に、声に。
その躰も、心も、全て愛しい。
この感情は、きっと……
己の中の廃した蜜情なのか。
「あぁぁぁぁ……っっ!」
と、その時。
美依が躰を痙攣させて、脱力させた。
肌が燃えるように熱い、真っ赤に染まって……
そして中からはまた濃い露が溢れてくる。
それは美依が波に攫われたことを意味していて、俺はそこでようやく顔を上げた。
随分と果てるのが早い。
敏感だとは思ったが、素直な娘は可愛いと素直に思う。
唇に付いた蜜を舐め取って、指でも拭って。
美依は全身で荒い息をしながら、視線だけ振り返ってくる。
真っ赤に濡れた瞳は兎を彷彿とさせ、それを喰う獣は俺なのだと実感させられた。
「……随分、好かったと見える」
「ち、違います……!」
「やはり好いてる男に抱かれているからか。なら、更に快感を与えてやろう」
「……!」
俺が膝立ちになり着物と袴を乱すと、美依は驚いたように目を見開いた。
"男の象徴"が雄々しく勃ち上がっているのが目に入ったからか、それに釘付けになっている。
人間、性的刺激を感じれば、誰でも"こう"なる。
それは俺とて然り、人間の男だからだ。
(お前は予想以上に愛らしい、だから高ぶる)
高ぶったものを鎮めるには、方法は二つ。
自慰をして、己を満たすか。
もしくは、女に情欲を満たしてもらうか。
俺は、この場に及んで自慰などする気は無い。
こうして女が目の前に居て、その者を愛しいと思えるから尚のこと。