第19章 君色恋模様《前編》 * 真田幸村
すると、幸村が手を伸ばし、女の人の涙を拭ってあげている姿が見えて。
それを見た瞬間、ざわついていた心がひどく軋んだ。
嫌だ、昔の彼女なんかに優しくしないで。
女の人が苦手って言ってたじゃない。
幸村が優しい人なのは知ってるけど……
でも、違う人に優しくする姿を見たくない。
こんな、こんな醜い気持ち。
もう……二人を見ていられない。
「……ごめん、佐助君。私、帰る」
「美依さん?」
「お茶とお団子代置いていくね、ごめんね」
私はそのまま佐助君を残して席を立った。
そして、全力疾走でその場から逃げる。
色々な考えが頭の中でぐるぐる回って……
もうパンクしそうなくらい、切羽詰まっていた。
幸村は朝から姿が見えなかった。
それはもしかして、あの女の人に会うためだったの?
昨日、白無垢を見ている時も幸村は話を濁した。
まさか、この人に関係あるの?
やましい事じゃないって言ったじゃない。
こんな、こんな風に女の人と会ったりして、
────もう、幸村が解らないよ……!
『幸村、ちょっとごめん』
『佐助?なんだお前、来てたのかよ』
『うん、美依さんと』
『幸、知り合いの人?』
『おー、友達ってやつ』
『幸村、早く美依さんの後を追って』
『え?』
『いいから、これ以上拗れる前に』
少しだけ、冷たい風が頬を撫でる。
溢れた涙を乾かすには、ちっとも優しくなくて……
私の心まで、ひやりと冷たくさせた。
走って町や廊下を駆け抜けている間に、信玄様とすれ違った気がする。
でも立ち止まる余裕もなかった。
私は自室へと転がり込み、うずくまって小さくなる。
隣に掛かっている白無垢が……今日はやたらとくすんで見えて。
祝言間近のトラブル。
浮き足立っていた私への試練なのか。
もうすぐ、幸せになれるはずだったのに。
どうして……こんな事が起きるの?
頬を伝う雫が切ない。
私は自分の心を守るように、自分の腕で自分を抱き締めた。
本当ならこれは幸村の役目なのにと……
責める気持ちと切れそうな思いで、押し潰されそうになっていたのだった。
君色恋模様《前編》
ー了ー
次章>>>>
君色恋模様《後編》