第12章 愛逢月の秘蜜《前編》* 政宗、家康
『あっ…政、宗……!』
それは、鮮明に私の記憶に刻まれた。
いっその事、忘れてしまえば良かったのに。
お酒に酔っ払ってしまったあの夜。
私を部屋に連れて行ってくれ、介抱してくれた政宗。
でもそれだけでは終わらずに、私達は。
『可愛いな、お前…堪んねぇ』
『ぁっ…いい、よぉ……!』
『素直でよし、ほら…もっと感じろ』
衝動的ってこういう事を言うんだ。
火照る躰を持て余ますなんて、私はなんていやらしい女なんだろう。
でも……政宗はそんな私に優しかった。
お酒に酔い、熱に浮かされた私を、政宗は可愛いと言ってくれたんだ。
『人肌恋しい時なんて、誰にでもあるだろ。
お前は何も気にせず抱かれていればいい』
大きな熱い手が、敏感な肌を滑って。
ぐずぐずに蕩かされては、甘美に啼いた。
政宗は、私を見兼ねて助けてくれただけなのかな?
『────美依』
忘れられない、あの青い隻眼を。
熱を孕んだ瑠璃色の宝石は、私だけを見つめていた。
そして、掠れた甘い声で私を呼んだ。
まるでそこに恋とか愛の感情があるみたいに。
うっかり勘違いしそうになるそれは、とても情熱的で私を淫らな女にさせる。
あれはお酒の過ちか、戯れの契りだったのか、
────…………それとも?
「え、また宴?」
少しだけ雨模様の、文月のある日の事。
家康からの話に、私は思わず声を上げた。
七夕の夜に宴を開くから私も参加しろ、と信長様が仰っていると言うのだ。
宴ならこの前も『雨で鬱々するから』という理由で開かれたばかり。
(……信長様って案外騒ぐの好きだよね)
何かに理由をつけて開かれる安土城の宴。
まあ、賑やかなのも嫌いではないけど……『宴』と聞くと、今は少し引っ掛かることがあるからなぁ。
私が小さくため息をつけば、家康は眉ひとつ動かさずに私をじっと見て。
そして、私の言葉に返すように淡々とした口調で言った。