第11章 黒と蜜、紅と熱 * 信玄END
「……大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
「君の涙は、もう見たくないからな」
「すみません、今日だけ」
「……そうだな、おいで」
そして、美依を懐に招き入れ、抱き締めてやる。
感傷に浸ることを、咎めたりはしない。
また笑顔になればいいだけだから。
あの男も言ってるだろう?
笑顔を絶やさぬ様に、愛してやってくれと。
いつでも笑顔は難しくとも、それでも……
美依とはまたまだたくさん時がある。
これからたくさん笑い合えればいいと、そう思う。
奪い、奪われる黒い感情。
蜜な鎖に囚われて……
それでも、紅の炎が燃えていた。
瞳に、
心に、
それは抗いようのない真実だ。
俺にも、
あいつにも、
結局は似たもの同士なのかもしれない。
恋情は深いものだ。
薄っぺらいものなんてない。
自分なりの愛し方と、
想う相手の愛し方が上手く交じ合えば…
それはきっと、極上の"幸福"になる。
────あの男にも
幸福を感じられる相手が現れるように
それを思いながら、俺は腕の中の温もりを優しく包み込んだ。
それは泣きたくなる程温かく、これから俺達歩む道が、どうか幸せと優しさに溢れているようにと───………
まだ見ぬ未来に思いを馳せて、愛しい女の頬に流れるその温かな涙を、そっと拭ったのだった。
黒と蜜、紅と熱《信玄END》
ー了ー