第10章 黒と蜜、紅と熱 * 信長END
『……怖かったんですか?』
『────そうだな』
いつか私が信長様の元を去ると……
それをずっと恐れていたのだろうか。
身体だけの関係で、心は手に入らない。
もしかしたら、私なんかよりずっとずっと、信長様の方が苦しんでいたのかもしれない。
いつも信長様は強い人だと思っていた。
でも…こんな脆さが隠れていたんだ。
私はそっと腕を伸ばし、信長様の頭を掻き抱く。
胸にしっかりと抱き締めて……
そして、眠る信長様にしっかりと誓う。
「私、もうどこにも行きません。ずっと貴方の傍に居ますから……だから安心してくださいね。もうあんな虚ろな目にはさせない、ずっとずっと愛していますよ」
それは"ほっとけない"と言う同情なんかじゃない。
不器用で純粋な愛し方しか知らないこの人を……どうしようもなく愛してしまっただけだ。
信玄様と対峙した時、大きな背中の後ろから微かに信長様が見えた。
激情の炎が宿った瞳は、煌めくどころか翳っていた。
酷く危うい目をしていた。
私、それを見て…解ったんだ。
────この人をこうさせているのは私
私が守らなきゃ、脆くも崩れてしまう前に
愛しいこの人が、心から笑えるように
私は……ずっとずっと貴方の傍に居たい。
「こんな頭撫でたら、信長様怒るかな」
「ん……美依……」
「あ、起きましたか?」
「……ん………」
「……寝言?ふふっ、こんな可愛い一面もあるんだな」
柔らかな髪を梳いて、幸せに浸る。
お互いに傷ついた分、これから一緒に幸せになっていきましょう。
もう、私達は『二人で一つ』
離れる事は……絶対にないのだから。
夕陽が差し込む天主。
貴方の寝顔に赤い光が落ちて……
二人の柔らかく優しい時が流れていく。
もう迷わない。
貴方だけを愛して、一緒に笑い合って……
二人で手を取り合って、共に歩いて行く。
私は腕の中にある温もりを堪能し、再度目を閉じた。
愛しい人の寝息を感じながら……
もう一度、浅くとも優しい眠りに落ちていったのだった。
黒と蜜、紅と熱《信長END》
ー了ー