第10章 黒と蜜、紅と熱 * 信長END
「美依……」
「気持ち、いい、です…すごく」
「ああ、俺もだ」
「やっと……ひとつになれましたね」
「……そうだな」
息を整えながら、美依が微笑む。
花のように愛らしく…綺麗な笑顔で。
(同じように、思ってくれたのか)
それが嬉しくて、ふわりと抱き締めたら、美依も俺の背中に腕を回してきた。
満ちる幸福で押し潰されそうな心。
ほんの少し…視界が滲んだ。
「────俺と貴様は、もう二人で一つだ」
とても遠回りした。
躰だけ手に入れ、手に入らない心に焦れて、貴様を傷つけ苦しめた。
一瞬は離れてしまったけれど……
こうして今結び合える事が、とても愛しくて堪らない。
俺達はまた見つめ合い、笑顔を交わして唇を重ねる。
穏やかな温もりが落ちて、そっと瞼を閉じたら……
堪えきれずに瞳から零れた雫が、頬に一筋の跡を作っていった。
*****
私が意識を浮上させると、天主の中に柔らかな夕陽が差し込んでいた。
そうか、もう夕方なのか。
朝明けに信長様とここへ帰ってきて、囲碁勝負をして、その後愛し合って……
まだ眠気を纏った頭で考えていれば、身体全体が温もりに包まれている事に気がつき。
少し顔を上げれば、穏やかに寝息を立てる信長様の端正な顔が間近にあった。
(信長様っ……!)
瞬間、ドキリと心臓が跳ね上がる。
信長様の寝顔を見るのは、これが初めてだったからだ。
そして、私を包んでいる温もりは、信長様が抱き締めてくれていたからだと、改めて気がつく。
しかも、しっかり褥に移動しているあたり、信長様が運んでくれたんだな…と。
その少し幼く見える寝顔を見ながら、色々な事を考えて、何だか少し切なくなってしまった。
「信長様…こんな顔で眠るんだなぁ……」
信長様は私が目覚める時には、いつも先に起きていた。
もしかしたら、信長様自身は眠っていないのかもしれない。
いつも私の髪を梳きながら、優しくも寂しそうな目をしていた信長様。
何を考えて、私の寝顔を見ていたのだろう。
そう思えば、さっきまでの情事の中で、信長様が言っていた言葉を思い出す。
あの時はサラリと流されてしまったが……
あの"一言"に全ての意味が詰まっている気がした。