第1章 さよならの代わりに
お互い考え事をしていたからなのか、前方から来る相手に気がつかなかった。
リヴァイ…。
「やぁ、リヴァイ。リヴァイも食堂に用事?」
無理に明るく振る舞ったのが、バレたのか、険しかった表情が少し緩んだようだ。
「あぁ。クソメガネか。水を飲もうと思ってな。」
「奇遇だね。私もそうだったんだよ!」
とっさに、嘘をついたがこれはこれでいいか。
2人して食堂に足を踏み入れたが、ハンジはつい、あっ、と声を漏らしてしまった。
殺風景な兵団の食堂には、浮いてしまうようなかわいらしい花瓶に花がちょこんと咲いていた。
それは、今回の壁外調査へ出発する日の朝、リリーが生けたものであった。
食堂の窓から差し込む太陽の光を受け、キラキラと光り輝く様子は、まるで、ダイヤモンドのようだった。
美しく輝くその花をみると、もうこの場にはいない彼女が、おかえりなさいと笑顔で出迎えてくれているのではないかと錯覚した。
「おい、ハンジ。あの花はなんて名前なんだ。」
リヴァイは、美しく咲いているその花を真っ直ぐに見つめながら、問いかけた。
その顔は、愛する人を見つめる柔らかな顔だった。
「あぁ、あの花はネリネという花だよ。」
たしか壁外へ出た日の誕生花だ。花言葉は———。
そこまで言って、はっ、とした。
ここからは私が言うべきでない。リヴァイ自身が、彼女の想いに触れるべきだ。
「あいにく忘れてしまったよ。」
ネリネ…ああ、なんて君らしい花なんだろう。
君が命を落とした日の誕生花がネリネだなんて、偶然なんだろうか。
なぁ…
私もリリーと同じ気持ちだよ——。