第1章 さよならの代わりに
帰還してからも、リヴァイはどこか上の空だった。
想い人を失うという経験をハンジはしたことがないが、それでもこの両手に収まらない程の信頼できる仲間を失ってきた。
その度に胸が締め付けられるような痛みを感じてきたのだ。
誰よりも仲間を想う彼だからこそ、尚更その想いは強い。
ましてや、想い人なのだ——。
少しでも元の、リリーのいた頃のリヴァイに戻ってほしくて、柄にもなく紅茶を入れて持って行こうと思った。
食堂へ向かう廊下。
普段は廊下まで賑やかな声が聴こえてくる食堂は、閑散としていて、壁外調査の現実を突きつけてくる。
彼女がいないという事実は、私にも大きな傷を与えた。
リリーが入団した当初からの付き合いだが、彼女は花のような女性だった。
愛し、愛される為に生まれたような可憐な女性。
だが、真っ直ぐで意志の強い女性。
上官や後輩にも好かれる彼女は、ハンジにとっても眩しい存在だったのだ。
彼女は花が大好きで、色々な話を教えてくれた。
この花は愛する人のために贈った最後の花で、その時に彼が言った言葉が花の名前になっているんだとか、彼女が入団してから多くの花についての物語を聞いた。
そのせいで、ハンジもリリー程ではないが、花の知識が身についていた。
ハンジが巨人について語ると夜が明けてしまうように、彼女も花について語ると夜が明けてしまうほどだった。
2人で、巨人と花という全く相反するような話題について、夜通し語った日もあったな、と彼女との思い出に浸りながら、食堂へ足を進めていた。
あの楽しかった日常は、もう想い出へと変わってしまった——。