第1章 さよならの代わりに
多くの心臓が捧げられた今回の壁外調査が終わり、私達は、兵舎に帰還した。
今回の調査では、戦友にとって大切な人を失った。
その友は、彼女の報せを聞いた後から生きる屍のようだった。
顔や態度には出さないように気をつけていたみたいだったが、長年共に闘ってきたハンジの目は誤魔化されない。
彼女の亡骸と対面した時の、彼の顔は一生忘れることはないだろう。
今までみたどんな表情よりも、儚く美しかった。
彼女の顔に付いた血を優しく拭き取り、髪を整える様子は、物語のワンシーンだった。
まるで、王子と眠り姫2人だけの世界。
その物語と違うところは、眠り姫がもう王子からのキスがあったとしても、目を覚ますことはないということだ。
いつかリリーから聞いたその物語の結末は、王子と眠り姫が結ばれるというハッピーエンドだったのに、どうしてこの2人はこんなに悲しい結末を迎えてしまうのだろうー。
ハンジは2人の悲劇的な結末を見ていられなくなり、2人の元を後にした。