第1章 さよならの代わりに
リリーは、誰からも愛されるような兵士だった。
上官、後輩問わず。
それは決して、その整った容姿に惹かれてというわけではない。
容姿だけでなく、その心までも美しいのだ。
正直、そんなリリーのことを最初はうっとおしく思っていた時期もあった。
だがそれは、ただ、眩しかっただけだった。
リリーという存在がー。
ハンジがいつか言っていた。
小さな頃は他人の幸せを一緒に喜ぶことができるのに、大人になったら、それが出来なくなる。
他人の嫌な部分や嫉妬ばかりに目を向けるようになり、成長するにつれて、純粋に喜ぶことが出来なくなっていくものだと。
だが、リリーは違う。
純粋なのだ。他人の幸せを心から喜ぶことができ、他人の悲しみを一緒に受け止めることができる。
だからこそ、あいつは皆から愛され、慕われていた。
そしてあいつは、何より花が好きだった。
殺風景だった兵舎の食堂には、彼女が想いを込めた花がいつも飾られていた。
余程花が好きなのか、少ない給金を花を買うお金に換えたり、花の種を買って兵舎の周りに小さな箱庭を作っていた。
なんで、そこまでするのか問うたことがある。
その頃の俺には、花の良さというものがわからなかったから。
一瞬驚いたような表情をした後、リリーは、満面の笑みを浮かべながら答えた。
「花が大好きだからです。」
「綺麗な花みると、心が洗われるような気がするんです。辛いことがあっても、健気に咲く花をみることで、自分も頑張ろうって思えるんです。」
一呼吸置いてから、
だから少しでも、みんながこの花をみて心が和らいでくれるといいなぁ…と目を伏せて呟いた。
そういったリリーの姿は、どこかの貴族の屋敷でみた聖母の絵画のような、そんな温かな目をしていた。