第1章 さよならの代わりに
死は突然やってくる。
それは、自分の想い人であってもだ。
幾度とない壁外調査で、その残酷さを理解していても、あいつは大丈夫だと思ってしまうのは、俺の願望だったのかもしれない。
壁の外へ出る度に、多くの仲間が亡くなってきた。
あいつだけが例外だってことはないのにー。
「そうか。」
そう呟いた自分の前には、自分よりも頭ひとつほど背が高い新兵が涙でぐしょぐしょになった顔を晒している。
「リリーさんは、俺を庇ってっ…巨人に…」
「わかった、もう泣くな。泣いたところであいつは帰ってこない。」
新兵に向かって言っているはずなのに、なぜか自分に言い聞かせているようだった。
ーあいつは帰ってこない。
自分の口から発せられている言葉なのに、ひどく遠くの場所から聞こえているようだった。
目の前の新兵は、赤く腫れた目を何度も擦り続けている。
きっと自責の念で押し潰されそうなのだろう。
そんな奴に訊くは酷だが、訊かずにはいられない。
あいつの…リリーのこと。
「ひとつ訊いていいか。お前に辛い思いをさせてしまうが。」
「はい…。」
「あいつは…リリーは最期、どんな顔をしていたんだ。」
新兵はこの言葉を聴いて、必死で堰き止めていた涙を再びぽろぽろ落とした。
「リリーさんはっ…俺に、またね…って笑って、言ってくれましたっ…」
ーああ、あいつらしい。
「そうか。辛いこと思い出させて悪かったな。
お前も休め。」
新兵の肩にぽんと手を置き、その場を離れようとした。
「兵長っ!リリーさんのこと、本当に…本当に…すみませんでしたっ…」
「お前のせいじゃない。あいつが自分の意志で決めたことだからな。」
そう告げ、俺はその場を離れた。