第9章 縛る存在
合同練習の次の日。凛は実家のある佐野町を歩いていた。
まだ空が明るい。この日の部活はオフだった。
蝉の鳴き声と山から吹き抜ける風が凛の昔の記憶を呼び起こす。
小学校6年の夏以来だった。
(懐かしいな...)
山風を吸い込み、そして吐き出した。
懐かしさに浸り来たのではない。
凛はケータイを開いた。
そして今朝届いたメールを開く。返信はまだしていない。
差出人は汐だった。
風邪をひいて学校を休むという要旨のメールだった。
(どうして来てんだよ、俺...)
凛は風邪をひいたという汐のもとへお見舞いに行くために地元へ来た。
というよりは気づいたら電車に乗り込み佐野町へ向かっていたと言うべきか。
汐の家の場所については以前汐との会話で彼女自身がこのあたりとおよその場所を語っていた。
小さな町だ。長い間地元を離れていても場所を示されればだいたいどのあたりか分かった。
こう訊かれたらああ返そう、でもああ訊かれたらどうやって返そう、などと自問自答を繰り返してるうちにたどり着いてしまった。
しかも意外と凛の実家に近い場所であった。
表札には榊宮の文字。綺麗な一軒家だった。まだ建てて年が浅いことが見て取れる。
門を通り抜けて玄関の前に立つ。
そして一息ついてインターフォンを押した。
扉が開くまでの間、凛は色々なことを考えた。
出なければ出ないでそれでいい、もし母親が出たらなんて言おう、まさかありえないとは思うが父親がでたらどうしよう。
短い時間ではあったが、凛とってやたら長く感じた静寂だった。
玄関の扉が開いた。
出てきた人の顔を見て凛は息を呑んだ。
「...っ!お前は...」
「...アンタ...」
凛の目の前に立っていたのは青みかかった黒髪の背の高い美女。
璃保だった。