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Emotional Reliable

第8章 Water


 

凛の傘に入れてもらって駅まで行った汐は今、電車に揺られていた。
ポケットの中のケータイが微かに振動した。
メールの受信を表す青いランプがついていた。ケータイを開き差出人を確認する。

表示された名前は〝お母さん〟だった。
駅まで迎えに来てるからね、という内容に、わかったー、と短く返信をした。


地元駅についた。雨は小雨になっていた。
駐車場へ向かうと母の車が止まっていた。
ただいま、と言いながら車に乗り込むと汐の母は車を発車させた。

地元駅から家まではさほど離れていない。歩いても十分いける距離であった。
だから普段汐は自宅から駅までは徒歩だった。
今日はたまたま雨で傘を持っていず、さらに運良く母の仕事が休みだったため母に迎えに来てもらった。
自宅までの道中にある数少ない信号で止まると母は汐に声をかけた。

「向こうも雨降ってたでしょ、傘ないのにどうやって帰ってきたの?」
「入れてもらってきたの」
「へー、それって彼氏?」
「え!?」
母に突拍子もないことを言われて汐は握っていたケータイを落としそうになった。

「と、友達だよ!」
落としそうになったケータイを握りなおして汐は答えた。

「彼氏なんて、いないよ」
そう付け足した。
彼氏なんて、と言ったときに凛の顔が浮かんだ気がする。
なんだか気恥ずかしくてすぐさま浮かんだ顔をかき消した。

「なんだ、違うのね。最近汐ボーっと考え事をしてることが多くなったから彼氏のことでも考えてると思ってたのに」
「...っ!」
一緒にいる時間が短いのにこういう所にはよく察しがきくんだね、と内心舌を巻く。
しかし汐自身ボーッとしてるという自覚はまったくなかった。

「中学のころは実のない恋愛を繰り返してたからわからないかもしれないけど、好きな人ができるって素晴らしいことよ」


汐は中学時代、実のない恋愛を繰り返していた。告白されて断れないから付き合う。しかし相手のことが好きではなかったから罪悪感に駆られて長く続かない。
まるで心にあいた穴を埋めるかのようにそれを繰り返していた。

高校生になってからはそんな恋愛もしなくなったが未だに〝好き〟という感情がよくわからなかった。


(好きな人、か...)

最近やたらひっかかる〝好きな人〟という単語。
バックミラーにちらりと映る汐の表情はすこし陰りを見せていた。
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