第4章 噂のカノジョ
(そうだ、俺、あいつのケータイのアドレス知らねぇ...)
なんとなく机の引き出しを開けた。小さく折りたたまれた紙に目が行く。
取り出して開いてみると、そこには汐の〝榊宮〟という名前とケータイの電話番号が書いてあった。
思わずふっと声に出して笑う。それに気づいた似鳥が怪訝な顔で凛をのぞき込んだ。
「どうしたんですか?松岡先輩」
「いや別にどうもしねぇ」
メアドは知らないくせに電話番号を知ってるなんてなんか笑えるな、と凛は口の端を軽くゆがめた。
(さすがに電話は、俺はあいつの何なんだってハナシだよな)
凛はケータイを閉じ、窓の外を見た。季節は春の盛りを過ぎたころ。
外ではまだつぼみにもならないアガパンサスが風に揺れていた。