第11章 Emotion
電話をかけるかかけまいかで迷っていると階下から凛を呼ぶ声がした。
「お兄ちゃーん!もうすぐ晩ご飯できるよー!」
妹の江の声だった。
もうそんな時間なのか、と思いケータイで時間を確認したら18時前だった。
夕飯にしては少し早いと思いながら凛は1階へ降りた。
1階へ降りると味噌汁のいい匂いがした。
今日の夕食のメインディッシュは豚キムチらしい。
肉とキムチが好きな凛のことを考えて、だろうか。
「あっ!お兄ちゃんごめんね、さっきもうすぐって言ったけどもうちょっとかかるみたい」
もうちょっと、と言ってもあと30分もかからないだろう。
凛はリビングでテレビを見ながら待ってることにした。
汐にどうやって連絡入れようなどと考えながら腰をおろす。
「お兄ちゃん、この間の地方大会のリレーすごかったね」
江が可愛らしい笑みを浮かべながら凛の隣に座った。
「俺も、あいつらと泳げてよかった」
「お兄ちゃん、フリーの試合でいつもと様子が違ったから心配したんだよ?」
「...心配かけて悪かったな」
久しぶりに凛が帰ってきて嬉しいのだろう、江は笑顔を絶やさない。
そんな江の頭をぽんと撫でてやるとさらに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「天ちゃん先生も、花ちゃんも、笹部コーチもみんな感動したって」
あのリレーに思いを馳せて江は微笑む。そして思い出したようにこう言った。
「...あの時ね、わたしたちの他にもお兄ちゃんたちのリレーみて感動して泣いてた人がいたんだよ」
そんなに自分たちのリレーは他人に感動を与えるものだったのだと思うと少し嬉しくなる。
凛は続きを促した。
「女の子でね、すごく可愛い子だなって思ったから覚えてるの。どこの学校かはわからないけど...確か他の背の高い女の子たちに、しおなんでないてるのって言われてたよ」
凛の時が止まった。まさか、こんなことがあるのだろうか。
「江、その女、背低かったか?」
「うーん、わたしよりは低かったと思うよ。どうしたの、お兄ちゃん?」
確証はもてないが、汐はあのリレーを見ていた。
凛は立ち上がり椅子に掛けてあったパーカーを羽織りケータイをポケットに放り込んだ。
時刻は18時を少し過ぎたところ。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「ちょっと用事ができた。...すぐ戻ってくる」
行く場所なんてひとつしかない。
いますぐ会いたい。