第11章 Emotion
地方大会前日の夜、鮫柄のリレーのメンバーから外され、そのショックを抱えたまま自分の試合に臨んだ。
結果は最悪だった。自分の泳ぎができていなかった。
それで自暴自棄になって水泳をやめてやろうとした。
もうどうにでもなれくらいに思っていた。
しかしそれを遙たち岩鳶水泳部の彼等が許さなかった。
自分の本当の気持ちを吐露し、受け入れてもらえた。
その結果が地方大会のリレーだった。
あのリレーで仲間と泳ぐ楽しさを思い出した。
本当の笑顔を取り戻した。
凛は、救われたのだ。
遙達と和解することができた。
心を覆っていた大きなわだかまりが晴れた。
大きなわだかまりが晴れて見えたことがある。
地方大会前日の夜、御子柴が言っていたこと。
〝お前は自分のチームを見ていない。なにか別のものを見ている〟
今思えばその通りだった。
凛は自分のチームを見ていなかった。
岩鳶SCの頃のリレーチームを見ていた。
それが御子柴にはわかったのだろう。
外されたときは、何で、どうして、といった感情ばかりで御子柴の言葉の真意には気づいていなかった。
しかし今考えればあの御子柴の選択は間違っていなかった。
これまでの自分の行動を振り返り、悔い改めようと思う。
そしてここまで考えて、一番胸に重く響く事実があった。
一ヶ月前のあの日、汐が凛に向かって言ったあの言葉。
〝ねえ松岡くん。あなたは何を見ているの?〟
〝松岡くんは今、目の前のものを見ていないでしょ〟
〝県大会前の松岡くんは自分の目標にまっすぐだった。けど今はそうには見えないの〟
今ならわかる。御子柴の言ったことと汐が言ったことは同じだった。
御子柴に言われる前に汐にも言われていた。
なぜそこで少しでも自分の行動を省みようとしなかったのか。
とても悔やまれる。
汐にひどいことをしてしまったという罪悪感が凛の胸に薄もやをかける。
(...会って話、してぇな)
まずは汐に謝りたい。謝って、そして、自分の過去も話そう。
そう思い汐に電話をかけようとする。
メールで連絡する、という考えはなかった。
とにかくはやく会いたい。その思いが先行した。
しかし、発信ボタンを前に指が止まった。
(女々しいな、俺...)
もし会いたくないと言われたらどうしよう、と考えてしまう女々しい自分がいた。