第10章 ことば
「...ごめん、あたしなんかにこんなこと、言われたくなかったよね」
笑っていた。涙を流さず泣いていた。
「...あたし、学校に忘れ物したから戻るね」
「ぇ、ちょ...待てよ!」
走り去る瞬間、汐は笑顔を見せていた。
なんともないふうに装ったつもりなのだろうか。
汐のそれは、凛がもう見たくないと思っていた悲しい笑顔だった。
1人立ち尽くす凛を月明かりが照らす。
「クソッ...」
自分の隣がやけにぽかんと空いてるように感じた。
一番傷つけたくない人を傷つけてしまった。
ことばが鋭利な刃になって、汐を刺した瞬間だった。