第4章 変わりゆく関係、別れ
その日の朝、まだほとんど夜更けともとれる時間帯にザラは目覚めた。
こんな早い時間に目が覚めることは滅多になかったし、起きるには早すぎるかとも思ったが、あまりにもすっきりと目が覚めてしまったのでそのまま他の兵士を起こさぬよう気を払いながら、兵舎の外へと出た。
寝巻き一枚では薄着すぎたかと躊躇われるほど、朝の空気は冷えていた。
ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込み、大きく吐き出すと、体中の酸素が綺麗に入れ替わったように感じ、思わず背筋がまっすぐ伸びた。
ザラは辺りを少し歩き、適当な場所を見つけると腰を下ろして、空を見つめた。
遠く、東の空がうっすらと白みつつある。
今日、この太陽が昇り、沈む頃には──などと、ふと思った。
何かにつけて、感傷的になる自分がいた。
だが仕方のないことだろう。
今日ここを発ち、無事に戻ってこられる保証など、どこにもないのだから。
アーヴィンの言うように、壁外調査へ向けて出来る準備などほとんどないに等しかった。
したことといえば、死後少しでも遺品整理がしやすいよう身の回りの物を綺麗に片付けたくらいである。
アーヴィンへ向けて、遺書をしたためようかとも迷ったが、ペンをとってすぐにやめた。
二人の間に、言葉など必要ないように思えた。
思い出した時、心の中できっと会える。
その約束だけで、もう十分だと思った。
言葉にすればするほど、かえってこの気持ちが安っぽくなるような気がした。
きっと彼はわかってくれている。
私がどれだけ彼を想っていたか。…愛していたか。
東の空に、ゆっくりと太陽が昇った。
陽の光を一身に浴び、ザラは眼を閉じた。
あたたかい、と思った。
「…何してんだ、こんな時間に」
頭上から声が聞こえ、不意に明かりが遮られた。
声だけで相手が誰かわかったので、眼を閉じたまま、ザラは思わず小さく笑う。
『…どうしたんですか。どうして、こんなところにいらっしゃるんです』
「それはこっちのセリフだ。こんな時間に兵舎の前に座り込んでる妙な奴が見えたんで、様子を見に来た」
『妙な奴って…。たまたま目が覚めたから、朝日を眺めにきたんです。それより兵長、どいてくださいませんか。そこに立たれると、朝日が当たらない』
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