第1章 追憶
「ザラ・ラドフォード、何か言いてえことはあるか。事によっては、退団処分ものではあるが」
私は敬礼したまま、はっ、と返事をし、大慌てで弁解へと回った。
『つい先日、入団いたしました!同郷の幼馴染、アーヴィン・アスクウィスを追っての入団であります。初めて袖を通した自由の翼の兵服、そして調査兵団の兵舎にすらも感動を覚えつい高揚し、結果その愚かさは、アーヴィン・アスクウィスとリヴァイ兵士長を見間違えるに至りました!』
兵長は黙ったまま聞いている。
『アーヴィン・アスクウィスはこれまで兄妹同然に共に育ってきた非常に仲のよい友人であります!見つけられた嬉しさに、つい年甲斐もなく、背後から押して驚かせてやろうなどという気持ちが芽生えました。今となっては何を言っても後の祭りですが、けしてリヴァイ兵士長だとわかって噴水に突き落としたわけではありません!』
「……なるほど」
一息にそこまで喋ると、リヴァイ兵長はいたって真剣な面持ちで、顎に手をあてて頷かれた。
今思えば、なんとしどろもどろな言い訳であろうか。
この時、静止したまま私たちのやりとりを見守っていた調査兵たちは一体何を思っていたのだろう。
穴があったら入りたいとは、まさにこのことだと思う。
広場に再び静寂が訪れた。
リヴァイ兵長は何かを考え込んだ風に視線を落としておし黙り、私はというと、敬礼したままぎこちなく固まっていた。
あまりの緊張に、自分の心臓の鼓動や、耳の奥を流れる血液のざあざあという音までもが、はっきりと聞こえていたように思う。
「…まあ、人違いの一度や二度は、誰にでもあることだろう」
永遠かとも思われた静寂を破ったのは兵長で、そう言って頷かれると、去り際に、「今後は気をつけろ」とだけ仰せになった。
遠ざかっていくその背中へ、はっ!申し訳ありませんでした!と深々と私は頭を下げる。
顔を上げ、兵長が去っていく様子を茫然と見つめながら、なるほど、アーヴィンとは歩き方が全然違った、歩いているところから見ていれば、アーヴィンと兵長を間違えなかったかもしれない、などと頭の片隅でぼんやりと思った。
これが、リヴァイ兵長との出会いだった。
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