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【リヴァイ】君がため

第1章 追憶




私に弁解の余地があるとするならば、ただほんの少し、驚かせようと思っただけなのだ。


その時、私は約3年間に渡る訓練兵団としての全訓練過程を終え、念願の調査兵団に入団した。

調査兵団を志願した理由はただ一つ。
私より一年早く調査兵団に入団した同郷の幼馴染、アーヴィン・アスクウィスを半ば追うようにして、訓練兵に志願したのである。


故郷で本当の兄妹のように育った私たちは、お互いを唯一無二と思えるほどの親友だった。

巨人たちの襲撃により、生まれ故郷に、もう私たちの生家も家族もいない。
身寄りのない私たちにとって、お互いが唯一残された家族のようなものだった。


夢にまで見た、自由の翼の刻まれた兵服に調査兵団の合同兵舎。

貧乏兵団などと揶揄されているから、てっきりもっとみすぼらしいものかと思っていたのに、蓋を開けてみればそこには非常におごそかな、洗練された空間が広がっていた。

ここにいるすべての人が、あの地獄のような訓練兵団期を乗り切ったかのかと思うと、頭が下がる一方である。



自由の翼の兵服に嬉しくなって、すぐさまこの兵舎のどこかにいるアーヴィンを見つけ出そうと小走りに駆け出したのも束の間、噴水の前にアーヴィンとよく似た後ろ姿を見つけた。

艶やかな黒髪に、男性としては小柄な体躯。

間違いない、あいつだ、と私は笑いを堪えるのに必死になりながら、忍び足で相手の背後をとった。

……あとから思うが、これがいけなかった。
後ろ姿が似ている。

そんな早合点でろくに確認もせず、すぐに行動に移ったところがまあ浅はかと言うかなんと言うか、端的に言うならばただの馬鹿だった。

お前は救いようのない間抜けだなとアーヴィンからも耳にたこができるほどに言われてきたわけだが、この時ほど自分を間抜けだと呪ったことはない。


抜き足、差し足、忍び足……そうっと近付き、両手を構え、ひと思いに渾身の力で相手の背中を突き飛ばした。


無論、はじめから噴水に突き落とそうなどと考えていたわけではない。

いくら幼馴染の仲の良い間柄だからといって、ここは調査兵団の兵舎であるし、他人の目もある。
何より、もう水に濡れたくらいで騒ぐような歳でもない。

ただ少し背中を押して、驚かせようと思っただけなのだ。




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