第8章 命の記憶
「……エレン止まるな! 進め!!」
オルオがエレンのフードを掴んで叫んだ。
その怒号に弾かれたようにザラたちは顔色を変え、厳戒態勢に入った。
リヴァイだと思ったその人は、リヴァイではなかった。
あれは誰なのか、どこから現れたのか、一体何が狙いなのか、───わかることは、あの兵士が今まさにグンタの首を掻き切って殺し、猛然とこちらへ向かって距離を縮めていること、ただそれだけなのであった。
「立体機動で襲ってくるぞ!」
「チクショウどうする!? エルド、どこへ向かえばいい!?」
「馬に乗っているヒマは無い! 全速力で本部に向かえ! とにかく、味方の元……ッ」
叫ぶエルドの視界の端から、得体の知れぬ兵士へ向かって飛び出していく者がいた。
ザラだった。
「待て、早まるなザラ!」
背後から、叫ぶ仲間の声を聞いた。
どうして早まらずにいられよう、と冷静さを欠いた頭の片隅でザラは思った。
悠長なことなどしていられない。
あの伏兵のまとう異様な空気、その不気味さのなかに、静かではあるが確かに燃える気概を見た。
それは間違いなく、殺気だった。
殺される。
相手の出方をうかがっている間に、きっと全員殺される。
十中八九、やつは女型の巨人の中身であった。
巨人化を解いた人間はまたすぐに巨人になれるのか、わからない、だがやつは今人間だ、今ならやれる、今なら、殺せる。
『うああああああ!!』
ザラは絶叫しながら瞬く間に間を詰め、目にもとまらぬ速さで伏兵へと斬りかかった。
気を抜くと握ったブレードを取り落としそうになるほどに手が震えていた。
恐怖を欺く為には速さが必要だった。
止まるな、止まっちゃいけない。
胸中で己を必死に鼓舞してザラは空中戦に出た。
すぐさま相手もブレードを構え応戦しようとしたが、立体機動の腕はザラの方が何枚も上手だった。
巧みに相手の白刃をかわし、目にも止まらぬ速さで伏兵の背後をとった。
食い入るようにザラの戦いを見つめていたペトラは息を呑んだ。
いける。
ザラの方が強い、勝てる。
勝負の決め手になるであろうザラの刃が振り下ろされたまさにその時、突如として眩い閃光が空を駆け抜けた。
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