第7章 歴史の動く時
ザラはエレンから目を逸らし、リヴァイの背中を静かに見つめた。
人類最強の肩書きを背負うには小さすぎる背中が、迷いなく前を走っている。
それだけで不思議な程に安心できる。
風にはためくリヴァイの外套が、本当の翼のようにザラには見えるのだった。
『ついて行くしかないの。私は調査兵団の兵士で、エルヴィン団長とリヴァイ兵長に心臓を捧げたの。二人が見ている未来を信じると誓ったの。対になる翼を、二人の双翼を───けして後ろを振り返らない二人のお背中を、死んでも追いかけると決めたの。だから、ついて行くの。ついて行くしか、ないの』
どこか強く自分に言い聞かせるような口調だった。
そしてザラの目はリヴァイの背中をも通り越し、もっと遠くの、何か別のものを見つめているようにエレンは感じたのだった。
「!?」
その時、突如として突風が吹き地面が揺れた。
「な…何の音!?」
「すぐ後ろからだ!」
「右から来ていたという何かのせいか…!?」
「お前ら」
後方を振り返る兵士達をリヴァイは呼んだ。
その手にはブレードが握られている。
「剣を抜け。それが姿を現すとしたら……」
目を細め、鋭い双眸で後ろを睨んだ。
「一瞬だ」
息を飲む間すら与えられなかった。
地面を揺るがし、木々を踏み分け、リヴァイ班を猛追する女型の巨人の姿が、ザラたちの視界いっぱいに飛び込んできた。
「クッ…この森の中じゃ事前に回避しようが無い!」
「速い!追いつかれるぞ!」
「兵長!立体機動に移りましょう!!」
ペトラが絶叫する。
しかしリヴァイは動かない、背後を見据え、静かに女型の巨人の様子を窺っている。
『───!』
不意にその時、ザラは思わず目を見張った。
愕然とした表情で、女型の巨人の顔を凝視した。
ぐんぐんと速度を上げる女型の巨人が、うっすらと微笑んでいるように見えたのだった。
嬉々としたその双眸には一人の青年の姿が映し出されていた。
『感情が……ある……、エレンを、狙ってる』
ザラは茫然と呟いた。
そしてぶるりと身を震わせた。
感情があり、明確な意志をもって私たちの後を追っている。
疑う余地がなかった。
女型の巨人は───否、"彼女" は、知性を持った人間であった。
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