第6章 良いお年を【エルヴィン】
多大なる犠牲──主にエルヴィンの副官が恥ずかし思いをした──を払って奪還作戦のメンバーはエルヴィンの自室にいた。
「枕元にプレゼントはクリスマスじゃないのか?」
ミケのツッコミを他所にハンジはプレゼントを置く。
「エルヴィンはクリスマスも仕事でパーティ参加できなかったじゃないか。その分だよ」
立場は違っても、離れた場所にいても・・やはり古参幹部組は彼らでしかわからない強い絆で結ばれている。枕元にはプレゼントの他に手紙が置いていて、メンバーそれぞれからの今回の作戦への謝罪と新年を祝うメッセージが添えられている。
ミケはモブリットが書いた手紙を持ち外套を羽織っている状態だ。
「ミケ分隊長、本当にいいんですか?」
「構わない。むしろ都合がいい」
「王都にはなぜか偶然ナナバがいるんだもんねぇ」
ポーカーフェイスのミケに対してニヤつくハンジが代わりにこたえる。どうやらミケはミケで幸せな新年になりそうだ。
リヴァイはエルヴィンの部屋にある2番目に高そうなウィスキーを片手にしている。
「おい、お前らもう行くぞ」
「じゃぁ、良いお年を」
ミケ以外は今からエルヴィンのウィスキーを飲むのだろう。リヴァイの合図でハンジ、ミケ、モブリットは退出する。
「皆さんありがとうございます」
深くお辞儀をして見送った。
静まり返ったエルヴィンの自室、目の前には愛しい人。
長いまつ毛と無防備な寝顔を見つめて呟く。
「年越しを一緒に過ごせなくて平気な恋人なんていませんよ?」
いつもは言えない嫌味を耳元で囁くと、形の良い眉が少し動いた。思いついたようにポケットに入っている口紅を塗り、エルヴィンの頬に口づけた。
「ハンジさんからもらったクリスマスプレゼントの24時間落ちない口紅です」
目覚めても王都にでかけないようにする自分は意地悪だろうか。最初は傍にいれるだけでよかった。しかし、日ごとにもっと一緒にいたいと思ってしまう、欲張りになってしまうのだ。本来ならば副官としてエルヴィン奪還作戦には参加すべきではなかっただろう。しかし、自分の願望が副官の職務より勝ってしまった。
「ごめんなさい、エルヴィン団長・・。でも、今年も貴方と過ごせて幸せでした。どうか・・」
――どうか来年も、少しでも長く貴方の傍にいさせてください ――
私の大切な人の新年が、素晴らしいものとなりますように。
――終わり ――