第6章 良いお年を【エルヴィン】
年越しの夜22時。
いつもは就寝準備や雑談で騒がしい調査兵団宿舎は静まり返っていた。一般の兵士達は今年も生きている事への喜びを胸に家族の元へ帰り、例年残って宿舎で年を越すのは幹部のみであった。その幹部たちも食堂に集まり年越しをしているはずが・・今年はその和やかな声さえ聞こえてこない。
「・・・人が動いている気配はしません」
エルヴィン・スミスの忠実なる副官は小声で囁いた。
「・・おい、クソメガネ本当に大丈夫だろうな」
「当たり前だろ!?このためにどれだけ徹夜したと思って――」
「分隊長殿!声が大きすぎます!」
「・・スンッ・・。臭いだけで言えば寝ている」
エルヴィンの自室扉前に大の男が3人と女が2人、息を殺している様は他の人が見れば滑稽に映る事だろう。今から行う事はある意味反逆罪である気もするが・・。少々の罪を犯しても成し遂げたい事が彼らにはあるのだ。
「それでは、参ります・・」
副官はいつも左ポケット ――心臓の近く―― に大切に忍ばせている鍵を取り出し、そっと鍵穴に刺し込んだ。
僅かに鍵が開く音をさせ、慎重に扉を開いていく。刺し込む僅かな光が照らす床に散らばった書物は、部屋の主が慌ただしい日を過ごしたであろう事を示していた。ゆっくりと踏み入り足を進めると寝室の扉へと辿り着く。
「・・スンッ。問題ない。深い眠りについている」
ミケの判断で寝室の扉を開けると、調査兵団13代目団長が兵団服のまま眠っていた。
「よし、やるぞ」
リヴァイの掛け声と共に各々準備へと取り掛かった。