第11章 帰還3
落ち込む政宗を無視して、家康は、彼の横を通り過ぎようとしたのだが、一瞬顔をしかめ、足を止めた。
「俺は自室に戻るが、政宗も天主に行くなよ。それと、朝っぱらから、女遊びをしただろう? 女臭いぞ。軍議に参加するなら着替えろ。じゃあな」
家康は、またも嫌味を言い放ち、さっさとその場を立ち去った。
残された政宗は、苦虫を噛み潰したような顔をして踵を返したのだった。
それが、少し前の出来事。
私は、信長の居室に向かう階段を上っていた。
いや、正確には、如月に横抱きされているのだが。
自室を出てからは、如月や己の護衛達の事を考えていたが、ふと気になった事があった。
「昨日もだけど、この天主は、いつも人が少ないのか?」
「そうですね。三階から上は、護衛のみです。女中も限られた者が、護衛の監視の元、出入りします。天主全体が信長様のお住まいですから、警備が厳しいのですよ」
「ふぅん、贅沢だなぁ」
「あつ姫様、この時代の信長様は、日本で一番力をお持ちです。これくらい当たり前です」
そんな事は知っていたが、実際に本物の安土城を見て、文献で見た物より、遥かに大きく豪華な城は、信長の力を見せつける道具の一つなんだと感じた。
「だけど、こんなに厳重にしなくても良いのに……」
「それは……そうですが……」
言葉を濁す如月は、返答に困った時。
彼女は、私には嘘を吐けない。
それは如月だけではないが、彼女の場合は、若干挙動不審になる。
「如月、変な顔になってる。優秀な忍びのくせに、簡単な嘘くらい吐けば?」
「姫様〜〜〜それは、如月めには無理です」
悶絶するような顔にキョトンとしてしまったが、私以外には平気で嘘を吐くのに。
まあ、話したくないのであれば、無理に聞く必要もないと、意識を切り替えた。
そして、吹き抜けを囲うような階段を上り、あと少しで五階に着くというところで、何か聞こえてきた。
「如月……誰か泣いてる」
「えっ……?」
階段で足を止めた如月は、耳を澄ませていたが、段々と顔色が変わっていった。
「……あっ、んん……あぁ……あぁん……」
苦しそうな声に聞こえるが、人は見当たらない。
助けを求めているかもと思い、如月を見るが、
刹那、彼女は凄い勢いで階段を駆け上がったのだった。