第5章 二人の関係3
秀吉は、頭を抱え、痛みを耐えている。
茶碗が頭に直撃したのだ。
しかし、誰も彼には同情していない。
所詮は他人事なのだ。
そうなった理由も分かっている。
そして、その原因を作った張本人が口を開いた。
「秀吉、貴様、俺の命に背いたな? 動く事も話す事も許さんと言うたはずだ。貴様とて容赦はせんぞ」
「……っ、申し訳、ございません。……しかし、娘の無礼を放っておくわけにはいきません」
命に背いても、己を貫く秀吉。
首を刎ねられる覚悟で、信長を真っ直ぐに見ていた。
嫌な雰囲気になっていく大広間。
ポカンとして、その様子を見ていた私は、早く部屋から出て行きたかった。
そして、その場で立ち上がった。
「あの、帰って良い?」
と、全員の視線が集中した。
それもそのはず、被っていた打掛けが落ち、娘の全身の姿が見えたのだ。
見た事もない白い布を纏っているが、少し覗いた細い足首には、不似合いな鎖が巻き付いていた。
しかし、それを見た信長が、盛大に顔を歪めた。
大吾があつ姫を寝所に運んだ為、足首の鎖に気付いていなかったのだ。
更に、よく見ると足首は赤くなり、鎖で擦り傷が出来ていた。
見るからに痛そうだが、本人は気にしていないのか、それとも気付いていないのか、信長は、溜め息を吐くとあつ姫に話し掛けた。
「娘よ、俺の事が分かるか?」
「えっ……?」
一方私は、出て行きたいのに、前方に座る男に声をかけられ、一瞬戸惑ってしまった。
なぜそんな事を聞くのか分からない。
彼の名前を知っているからだ。
首を傾げていると、秀吉と呼ばれた男が、私を睨んでいた。
面倒はゴメンだ。
仕方なく、口を開いた。
「知ってる。……織田三郎信長だよね。あれ? 今は、三郎は名乗らないか?」
「ククッ、織田三郎信長で合っておる。それより、足首に鎖が巻き付いたままだが、痛うはないか?」
「あーー、ホントだ。何だか嫌な気を感じてたんだ。この鎖、術を掛けてあるね。普通の人間なら、死んじゃうよ」
私は足元を見ながら、そんな事を話していたが、白いワンピースに付いていた、泥塗れの藁に溜め息を吐いた。
暗闇で払い落としたつもりだったが、泥が乾き、服全体が汚れていたのだ。
そして、パタパタとそれを叩いた。