第4章 二人の関係2
大広間に着いた大吾は、襖の前で少し考えていた。
先程、目を覚ましたあつ姫は、記憶が混乱していた。
次に目覚めた時、周りは知らない男達だらけで怯えはしないか。
ましてや、その男達は、戦国武将。
泣き出してしまわないか?
大吾は、言いしれぬ不安に駆られ、あつ姫を見つめながら、微動だにしなかった。
「あの……大吾殿、信長様がお待ち申し上げております」
「……っ、分かっている。……襖を開けろ」
動かない大吾を不思議に思った、信長の忍びが声をかけたのだ。
無論、忍びが歩み寄って来た事を気付いていたのだが、あつ姫を中に入れるか迷っていた為、無視をしていた。
大吾は、仕方なく大広間へと足を踏み入れた。
「信長公、失礼します。……お連れ致しました」
突然入って来た大吾に、皆が騒ついた。
それは、彼の姿だ。頭の先からつま先まで、全身を隠す出で立ち。明らかに忍び装束なのだが、見た事もない誂え。
そして、見えるのは、僅かな隙間から覗いている、鋭く光る灰色の瞳だけだ。
身の丈は、二mには及ばないが、かなり背が高く、体格も良い。
付け加えると、異様な威圧感を漂わせている。
だが、その出で立ちに似合わず、赤い打掛けのような物を抱えている。
不審に思った秀吉だけは、一瞬動きそうになったが、信長の言葉を思い出し、押し止まった。
すると、信長が口を開いた。
「娘は、また眠ったのか?」
「はい。……先程、廊下にて少しの間、お目覚めでしたが、今は眠っておられます。いかがされますか?」
「……左様か……だが、一旦娘を下ろせ。座れば、目を覚ますはずだ」
「仰せの通りに」
信長の命令に、中段の真ん中辺りまで進むと、あつ姫を下ろした。
また、倒れないように大吾も腰を下ろし、あつ姫を後ろから支えた。
そこで、ようやく赤い打掛けが、娘だと、秀吉は気付いた。
すっぽり被せている為、娘の姿を見ることは出来ないが、支えている大吾が大きいせいか、娘がとても小さく感じた。
「……ここ、何処だ……?」
あつ姫が目覚め、言葉を発した。
大吾は、それを確認すると、静かに大広間を後にした。