第11章 帰還3
皆が居なくなっても、吊るされている男女を見上げている政宗。
その表情からは怒りが感じ取れる。
だが、そんな彼に後ろから近付く者がいた。
「伊達殿、少しばかり宜しいか?」
「……っ!」
上にばかり気を取られ、珍しく背後を気にしていなかった政宗は、驚いて振り向いた。
そこに立っていたのは、秀吉と三成、そして家康だった。
声を掛けたのは秀吉だが、政宗の驚いた顔に家康は、思わず笑ってしまった。
「ハハッ、政宗、城内とは言え、周囲に気を付けろよ。そんな呆けた顔では寝首を掻かれるぞ」
「な……ッ! 家康、そんな事分かってる。それより三人が一緒にいるなんて珍しいな」
「当たり前だ。こんな騒ぎになってれば様子を見に来るに決まってるだろう」
「あぁ……まあそうだな」
声を掛けた秀吉そっちのけで話す政宗と家康。
そんな二人の会話に秀吉は、少し驚いていた。
それは、昨日まで家康が、気さくに政宗と話しているのを見た事がなかったからだ。
声を掛けた事を忘れ、不思議に思っていると、家康が秀吉の顔を見た。
「秀吉さん、公の場以外では普通に話せと信長様が仰っていたでしょう? 俺と政宗の事は呼び捨てで構いませんよ」
「あ、ああそうか……忘れていた。ちょっと慣れるまで時間がかかるな」
「秀吉さん、それより政宗に話があるんでしょう?」
家康に言われ、すっかり忘れていたと、秀吉は真顔になり政宗を見た。
「そうだ、本題を忘れるところだった。あの吊るされている家臣だが、伊達殿、じゃなかった……政宗の家臣だろう?」
秀吉に指摘され、政宗の眉間に皺が寄る。
そして、盛大に溜め息を吐くと吊るされている家臣に一瞬だけ視線を向け、首を大袈裟なほど横に振った。
「……俺の家臣で間違いないです」
そう政宗が答えると、家康の眉間に皺が寄る。秀吉と三成に至っては、大きな溜め息を吐く。
そして、家康が吊るされている男女を再度見やると、ある事に気付いた。
「おい政宗、あの女子……のべつ幕なしにお前に纏わりついていた女子じゃないか?」
「何ッ! そうなのか⁈ 政宗、男女共にお前と関係あるなら問題だぞ!」
家康の言葉に秀吉が激しく反応すると、政宗の顔は青ざめていた。
そしてそれを離れた所から見ていた光秀の顔は、段々と険しくなっていたのだった。