第1章 血の雨に咲く華
その日の空は、不気味なまでに暗く重い鈍色だった。
こんな日は、心まで闇の底に沈んでしまう。
もう、消えてなくなりたい…
私は何故、まだこの世界にいるんだろう…
瑠璃月はナイフを取り出し、その白い手首に引けば、たちどころに紅い筋が刻まれ、同じ紅い色の珠が幾つも滲み出てきた。
薔薇の如き深紅の鮮血は、雪の色をした白肌によく映える。
この程度の傷では到底、生命を絶つ事など出来やしないのは最初から分かりきっている。
しかし、痛みと共に滲み出る生温かいそれを直接肌で感じる事に、瑠璃月は安堵感を覚えた。
一方で、それと同等の虚しさも込み上げてくる。
なんで私は、こんな事ばかり繰り返してしまうんだろう…
早く楽になりたい筈なのに…
瑠璃月は自己嫌悪に陥りながらも、より強い力を込めて、手首にナイフを当てがった。
今までで一番大きく肉が裂け、とめどなく鮮血が溢れ出し、滴り落ちたそれが床に血溜まりを作る。
時を同じくして、瑠璃月のその大きな両眼から涙が零れる。
あれほど消えてしまいたいと願っていた筈なのに、途端に果てしない恐怖が襲って来て、全身の震えが止まらない。
手からナイフが滑り落ち、冷たい金属音が響いた。
薄暗い部屋でひとり慟哭する瑠璃月の、視界が突如大きく揺らぎ、全身に激しい衝撃が走った。
「っう…」
その瞬間に叫ぶ事すら出来ず、自分の身に何が起きたのか気付いた時には、床に倒れていた。
どうやら、頭を掴まれ壁に投げ飛ばされたらしい。
「何をしているのかと思えば、貴様はまたこんな愚かな真似を…」
「ネウロ…見てたの…!?」
「我輩を遺して、貴様ひとりで勝手に死ぬ事は許さんぞ。」
翡翠の眼で瑠璃月を見据える。
「いいからもうほっといてよ!ネウロには分かんな…ぐあっ!!」
言い切るより先に、ネウロに頭を踏みつけられた。