第15章 都大会
ついに都大会当日がやってきた。瑠羽の体調に不安なところがあるため、今回は萌達のペアで試合をこなしていく。
準決勝の聖ルドルフをくだし、いよいよ次は決勝となる。これまでの良い流れを崩さず繋げたい。決勝の相手は山吹中だ。
「大丈夫。俺達のテニス、見せつけてやろうにゃー!」
真っ直ぐに笑顔を向けてくる菊丸。彼の笑顔を見ていると、本当に大丈夫だと思えてくるから不思議だ。
都大会までの期間、出来る限りのことをやってきた。息を合わせるために、とにかく菊丸のプレーをよく見て動き方を頭に叩き込んだ。
あとは、彼の発案した秘策を効果的に打ち出せるように戦況を見極めるだけだ。
決勝の相手である山吹中の部長、南は、しっかりとした定石のサインプレーで堅実にポイントを取りにくる。ペア同士の息もぴったりだ。
そこで、相手の予測出来ない変則的な動きで撹乱し、崩れたところを狙っていった。絶妙のタイミングで指示をくれる菊丸のお陰でポイントが決まっていく。変則ダブルス、それが限られた時間の中で菊丸が打ち出した秘策だった。
「バラバラに動いているように見えるけど、ちゃんと息は合っているね」
「変則ダブルスでくるとは…驚いたよ。やるじゃないか」
不二と大石が感心したように頷き合う。皆の応援の後押しもあり、決勝戦は青学が勝利をおさめることが出来た。
表彰式を終え、一同は荷物をまとめて帰り支度をする。バス停へ移動する途中で菊丸が隣へかけ寄って来た。
「お疲れ、夢野」
そのまま並んで歩きながら、彼はこらえきれない様子で話し掛けてくる。
「俺さ、今日の試合すっごく楽しかった!」
自分達のプレーに手ごたえを感じたのか、その声は興奮気味だ。
確かに今日の試合は練習の成果が出て上手くいったと思う。個人的には課題もあるが、それすら今後の反省点として取り組むのが楽しみなくらいだ。
「俺…テニスが好きだ」
不意にトーンの落ちた、静かな声が降ってきた。
「これだけは絶対譲れない、遠慮したくない…だから全力でぶつかっていく」
熱っぽい瞳で独り言のように紡がれる言葉。そこに込められた菊丸の情熱を、萌は感じていた。
「夢野にも解ってて欲しいんだ」