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sweet and sour time

第14章 ペア復活


「…何だか大変なことになっちゃったけど、ここが踏ん張りどころだにゃ」
「はい」

 皆が帰っていくなか二人で残り、制服に着替えたそのままでコートに入る。

「また一からやり直そう、俺達のテニスを」

 菊丸はまっすぐ、テニスの事だけを考えている。今は他の事を気にしている場合ではない、反省しなくては。

「夢野…いいの?」

 そう思っていると、急に菊丸の声が遠慮がちに小さくなった。

「え、何がですか?」
「ペアのこと……不二と別れちゃったけど、いいの?」

 彼はとても言いにくそうにして尋ねてきた。萌はまさか菊丸にそんな事を聞かれるとは思いもよらず、戸惑った。

「そんな、いいとかやだとか言える立場じゃないし…出場出来るだけでも」
「それ…ホント?ホントならいいんだけど。俺ミクスドも勝ちたいから…でも、もし夢野が嫌なら俺から手塚に言って…」
「やだなんて、言ってません…!」

 菊丸の言葉をさえぎって萌は必死に言い放った。次第に目の奥が熱くなるのを感じ、俯くと涙が零れてきた。
 名門の青学で男子に混ざってやっていく不安のなか、不二に甘えていた自分。フォローされっぱなしで、守られっぱなしで、そのくせ彼の気持ちに応えられなかった。
 菊丸とまた頑張りたいと願っていたのに、本人には伝わっていない。不二との仲をずっと疑って、気にかけていたのも彼だった。

「夢野?泣いてるの…?」

 視線を上げると、途端におろおろし始める菊丸の様子が涙でぼやける視界に映った。

「ご、ごめん。俺…強く言い過ぎた?泣くなよ…」
「そんな…言われても、涙が…勝手に」
「…じゃ、抱っこ」

 途切れがちに伝えると、短く呟いて菊丸は腕を伸ばし萌の肩を引き寄せた。その腕を背中に回し、がし、と力強く抱きしめてくる。
 突然のことに何が起きたのか理解が追いつかない。けれど彼の優しさだけは、回された腕から確かに伝わってきていた。













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