第119章 記憶の欠片<弐>
炭治郎の驚くほど低い声は、汐の鼓膜と脳を震わせた。
後ろを向いているため表情は伺えないが、微かに震えている肩はその怒りの強さを物語っていた。
炭治郎が怒りを露にすることは滅多にないが、汐はこれまで何度か、その滅多にないことを目の当たりにしていた。
「人を、ましてや女の子を殴るなんて、一体どういうつもりなんだ!!」
炭治郎は怒りを破裂させるように、大声で無一郎に詰め寄った。その言葉を聞いた汐は、炭治郎が自分を女の子扱いしてくれていることに嬉しさとこそばゆさを感じた。
「本当に女だったんだ。男にしか見えなかったよ」
無一郎はそんな炭治郎と汐を交互に見ると、さも当たり前だというように言った。
それを聞いた炭治郎は、再び怒りを宿しながら掴んでいた右手に力を込めた。
「ねえ、いつまで掴んでるの?邪魔なんだけど」
だが、無一郎は小さくため息を吐くと、先ほど汐にしたように肘を炭治郎の鳩尾に叩き込んだ。
「炭治郎!!」
「っ・・・!!」
汐はすぐさま炭治郎の元に駆け寄った。だが、汐と異なり炭治郎はそのまま踏みとどまり、顔を上げて無一郎を睨みつけた。
「へぇ・・・、倒れないんだ」
無一郎は少し驚いたように目を見開くが、炭治郎は苦痛に顔を歪ませたまま答えた。
「汐に殴られることに比べれば、これくらいなんてこともない」
「は?」
その言葉を聞いて、汐は顔を歪ませながら炭治郎を睨みつけた。