第15章 幕間その弐
その夜。鱗滝は夢を見ていた。
『左近次。てめー、汐に全部ばらしやがったな』
玄海が眉間に皺を思い切り寄せながら、鱗滝を睨み付けている。あの日、別れたばかりの姿で、彼はいつもの通り悪態をついた。
『余計な事をべらべらと喋りやがって。先に逝っちまった俺への当て付けか?ったく、いい性格してやがるぜ』
玄海は頭をかきながら困ったように眉を寄せる。そして鱗滝に向かって、試すような口ぶりで告げた。
『ここまで俺のことをボロクソに言いやがった責任を取ってもらうぜ左近次。理不尽?ふざけんじゃねえよ、当然だろうがボケ』
そう言って玄海は、この上ないくらい意地の悪い笑みを浮かべたかと思うと、急に真面目な声色でつづけた。
『汐を、アイツを頼む。やかましくて強がってはいるが、いろんなものをため込んじまう癖がある。何も悪くないのに|手前《てめえ》が悪いと思い込んじまうところがある。知らず知らずのうちに自分を傷つけちまうんだ。そんなどうしようもないバカ娘だが、困っている奴を放っておけないお人よしだ。そんなやつを、俺は置いてきちまった。今更こんなことを頼める義理じゃあねえが、もう俺にはお前しかいねえんだ。頼むな、友(ダチ)公』
それだけを言うと、玄海の姿はみるみるうちに霧の中へと消えて行ってしまった。
「玄海!!」
鱗滝は思わず叫び、布団から飛び起きた。汗が寝間着を濡らし、息も激しくなっている。
気が付けば朝陽がちょうど顔を出し始めているところだった。
鱗滝はそっと汐が眠っている部屋を覗く。彼女は規則正しい寝息を立て、あどけない顔で眠っていた。
その様子を見て、鱗滝は小さくつぶやく。
「安心しろ、玄海。お前の娘は強い。そして、とてもやさしい子だ。必ず、必ず責任を持って面倒を見よう」
だから、見守ってやってくれ。
零れた一筋の雫を隠すように、彼は天狗の面をつけるのであった。