第114章 刀鍛冶の里<壱>
「あ、ごめんね、こんな話聞いてもつまんないわよね。忘れて――「つまんなくなんかない」
甘露寺の言葉を遮り、汐はぴしゃりと言い放った。
「他人が何を言おうが、関係ないわ。そんなの、そいつらが勝手に嫉妬して勝手に怖がってるだけじゃない。誰のものでもない、みっちゃんだけがもつ才能だもの。そんな奴ら気にしないで、胸張ってふんぞり返ってればいいのよ!」
汐は鼻を鳴らしながらそう言い放ち、甘露寺ははっとした様子で言葉を聞いていた。
それはかつて、輝哉に言われた言葉と似ているように思えた。
『素晴らしい。君は神様から特別に愛された人なんだよ、蜜璃。自分の強さを誇りなさい。君を悪く言う人は皆、君の才能を恐れうらやましがっているだけなんだよ』
(似ているわ・・・。私の居場所を与えてくださった人と、似た言葉を・・・)
甘露寺の目には涙がたまり、心の底から汐を継子にしてよかったと感じた。
「ありがとうしおちゃん。私、あなたと会えて本当に良かったわ!あなたがたくさんの人に愛されている理由も、わかった気がする」
「愛されてる?本当かなあ?少なくともオコゼ野郎と蛇男からは嫌われてると思うけどね」
汐は苦々しげにそう言ったが、ふと、あることを思い出して一つ尋ねた。
「あ、そうだ。唐突に聞くけどみっちゃん、あいつ、あの蛇男の事はどう思ってるの?」
「蛇男って、もしかして、伊黒さんの事?」
「うん。非番の日にはよく食事に出かけてるって言ってたし、文通もしてるって言ってたから仲がいいんじゃないかと思って」
それは何気ない言葉だったが、甘露寺の心を乱すには十分だったらしく、赤らめていた顔がさらに赤くなった。
「い、伊黒さんとは、その。靴下をくれたり、一緒に出掛けたりするけど、でも、その・・・」
途端に口数が少なくなり、しどろもどろになる彼女に、流石の汐も察した。
(あ、こりゃ脈ありだわ。でもあの様子じゃ、あいつがみっちゃんの事を好きだってことには気づいてなさそう。あたしから見れば、あからさますぎて逆に引くのに、恋は盲目ってこういうことを言うのね)
師匠と弟子の関係であるにもかかわらず、精神面では完全に逆転する二人を、傾きかけた太陽は優しく照らしているのだった。