第113章 幕間その陸:故郷へ(後編)
朝餉を終えた汐と甘露寺は、港町で必要なものを揃えた後に、今一度鯨岩の入り江と来ていた。
汐の手にあるのは海に潜るための磯着と、漁に使うための縄。汐は岩の影で着替えると、縄を自分の身体に固く結びつけ、その先を甘露寺に渡した。
「あたしはこれから海に潜って、お宝とやらを探してくる。みっちゃんはこれをどこかに括り付けて、合図したら引っ張ってほしいの」
「それは構わないけれど、本当に大丈夫?昨日の今日だし、海に入る季節にしては冷たいし・・・」
甘露寺は心配そうな顔で汐を見れば、汐は首を横に振ってきっぱりと言った。
「大丈夫よ。海には慣れてるし、それに、どうしてかは分からないけれど、今じゃないといけない気がするの」
勿論、汐の話に確信などはないし、夢という曖昧な物で命を危険に晒しかねない行動をすること自体が無謀であることも、汐自身もわかっていた。
本来なら師範として、汐を止めるべきだった甘露寺だが、汐の真剣な眼差しに動かされ信じる気になった。
「しおちゃんが自分で決めたことだから、私は無理に止めたりはしないわ。でも、でもね。これだけは絶対に約束して。必ず無事で戻る事。それが私が柱としてあなたに課す試練です」
甘露寺は柱の顔でそう言い、汐も彼女の継子としての顔で頷いた。