第112章 幕間その陸:故郷へ(中編)
陽が落ち始めたころ。
港町で話を聞いた汐達は、その現場である村跡地へと向かった。
甘露寺は汐の精神状態を危惧して、何度も声を掛けたが、汐は微笑みながら頷くだけだった。
やがて、潮の香りが強くなり、潮騒の音が聞こえてきた頃。
「着いた・・・」
汐が呟く様に言葉を漏らし、甘露寺は目の前の光景に目を見開いた。
そこには、静かに波打つ海と、一面の砂浜が眼前に広がっていた。
建物の影は全くなく、流木すら流れ着いていない、殺風景な場所だった。
「ここが、しおちゃんの故郷・・・」
「故郷だった場所ね」
汐は甘露寺の言葉を訂正すると、そのまま砂浜の上を歩きだした。
「懐かしいなぁ。確かこの辺には悪戯っ子たちの家があって、おばさんがいつも手を焼いていたっけ。そしてその向かい側には、絹と庄吉おじさんの家があって・・・」
汐は砂浜の上を指さしながら、昔のことを思い出しながら言葉を紡いでいた。それを見た甘露寺は、胸が張り裂けるような痛みを感じた。
「しおちゃん、あのね・・・「さて。感傷に浸るのはこれくらいにして、鬼の根倉を探しましょ」
甘露寺の言葉を遮って、汐は決意に満ちた強い声で言った。その変わり様に、甘露寺は面食らったが、歩きだす汐をを慌てて追った。