第108章 幕間その陸:再開、そして勃発
その夜。
「玄弥、どうした?先ほどから箸が進んでいない様だが・・・」
悲鳴嶼にそう言われて、玄弥ははっとした様子で彼の顔を見つめた。
「あ、だ、大丈夫です。なんでもないです」
そう言って玄弥は、再び箸を動かすが、その動きはどこかぎこちない。
その気配を感じた悲鳴嶼は、そっと口を開いた。
「昼間来た大海原の事が気になるか?」
「!?」
その言葉に玄弥は、危うく味噌汁をこぼしそうになってしまった。
「あ、すいません。えっと、その。あいつのことは、最終選別の時に顔だけは知っていたんですが、まさか、まさか女、だったなんて」
初めて顔を見た時は、炭治郎の陰に隠れてしまい印象は薄かったのだが、その時は珍しい髪をした男としか思っていなかった。
それが女だったということと、故意ではなかったとはいえ、女性の胸元を掴んでしまった事に、玄弥は罪悪感と焦りに似た感情を感じていた。
「私も人づてで聞いただけなのだが、彼女、大海原汐は、人の目を逸らす特性を持ち、そのせいで性別をよく間違われていたそうだ。私や宇髄など、一部例外はあるようだが、大概はお前の様に男と勘違いする者が多い」
「そう、だったんですか」
玄弥は少し上ずった声で返事をすると、何かを考えこむように目を伏せた。その気配を感じ、悲鳴嶼は小さくため息をついた。
(ううむ、大海原との接触は玄弥には些か酷だったか・・・?)
年頃の少年の複雑な心情を想いつつ、悲鳴嶼は小さく念仏を呟くのだった。