第108章 幕間その陸:再開、そして勃発
人を寄せ付けない山の中を、青い髪を揺らしながら、汐は包みを抱えながら一人歩いていた。
彼女の師範である甘露寺蜜璃から、悲鳴嶼の元へ届けるためのものだった。
本来なら甘露寺も共に来る手はずだったのだが、生憎緊急の任務が入ってしまい、やむを得ず汐一人で来ることになってしまった。
(前に来た時も思ったけれど、とんでもないところに屋敷を構えてるのね、悲鳴嶼さんって。狭霧山で山登りの基礎を叩き込まれておいてよかった・・・)
もしもこの場に善逸がいたなら、きっとタダをこねて苛立ちを感じていただろう。などと考えていると、山の奥に聳え立つ建物が見えてきた。
前に一度、甘露寺に連れて行かれたときも思ったが、その屋敷、悲鳴嶼邸は見上げれば首を痛めてしまいそうなほど、大きかった。
「悲鳴嶼さーん、こんにちはー!大海原汐でーす!!」
汐は声を張り上げて呼んでみたが、返事はなく木々が風で揺れる音だけが響いた。
(えぇ、嘘。ここまで来たのにまさかの留守?ふざけないでほしんだけど)
折角汗水たらしてここまで来たというのに、無駄足になるなど冗談じゃない。
汐は顔をしかめながら、もう一度悲鳴嶼を呼ぼうと息を吸った、その時だった。
遠くから、風に乗って何やら声のようなものが聞こえてきた。耳を澄ませてよく聞いてみれば、それは経のようだった。
(悲鳴嶼さん・・・、の、声じゃないわね。誰だろう?まあいいわ。人がいるんなら、悲鳴嶼さんがいるか聞けるしね)
汐は声が聞こえる方角に向かって、その足を進めた。