第107章 変わりゆくもの<肆>
「私が嫌いなものは、"変化"だ」
そう言う無惨の右手には、血の滴る玉壺の頸が乗せられていた。壺に繋がれた体は引き千切られ、おびただしい量の血痕が残されていた。
「状況の変化、肉体の変化、感情の変化。凡ゆる変化は、殆どの場合"劣化"だ。衰えなのだ。私が好きなものは、"不変"。完璧な状態で、永遠に変わらないこと」
(無惨様の手が私の頭に!いい・・・、とてもいい・・・)
淡々と語りだす無惨の声を聞きながら、玉壺は怯えつつも喜びに似た感情を感じていた。
「百十三年振りに上弦を殺されて、私は不快の絶頂だ。まだ確定していない情報を、嬉々として伝えようとするな」
無惨は吐き捨てるようにそう言うと、鳴女の琵琶の音が響き、玉壺の頸は逆さまの無惨から垂直に落ちていった。
「これからはもっと、死に物狂いでやった方がいい。私は、上弦だからという理由で、お前達を甘やかしすぎたようだ。玉壺」
それから無惨は振り返ることなく、再び静かな声で口を開いた。
「情報が確定したら、半天狗と共に其処へ向かえ」
それだけを告げると、再び琵琶が響き、無惨の姿は現れた襖の奥へと消えていった。
「ヒィィ、承知いたしました…!!」
(・・・!!そんな・・・!!私がつかんだ情報なのに・・・、ご無体な。でも、そこがいい・・・)
半天狗は怯えながら這いつくばり、玉壺はその扱いを不服に思いながらも、言い知れぬ感情に全身を震わせていた。