第100章 決着<壱>
(この男、死んでない!さっきは確かに心臓が・・・。そうか、そうかこいつ!筋肉で無理やり心臓を止めてやがったなあ!そうすりゃあ毒の巡りも一時的に止まる)
「【譜面】が完成した!勝ちに行くぞォオ!!」
宇髄の声が轟音の余韻に浸る空間に高らかに響いた。
宇髄の言う【譜面】とは、彼独自の戦闘計算式。分析に時間はかかるものの、完成すれば敵の弱点や死角すらもわかる。
しかし今の彼は毒が回り、敵の攻撃を捌くので手一杯であり頸を狙うことは不可能だった。
それを行えるのは、炭治郎と汐のどちらか。しかし鬼も馬鹿ではない。不可思議な技を扱うワダツミの子である汐を狙う確率は非常に高い。
だが、宇髄は信じていた。ワダツミの子としてではなく、汐自身の潜在能力を。そして、竈門炭治郎の底力を。
宇髄は放たれた刃を全て弾き飛ばし、更に前へ突き進んだ。すでに片腕は機能していないのにもかかわらず、全く衰えることのない技の精度に妓夫太郎も青ざめた。
(コイツ・・・!!片腕が使い物になってねえんだぞ!?ありえねえだろうが!!ふざけんなよなああ!!)
妓夫太郎の鎌が宇髄の左目を大きく切り裂き、体勢を大きく崩した。しかし彼はそれでも刀を振り抜くが、切っ先は僅かに届かず妓夫太郎の腕を掠っただけだった。
そんな中、背後からは体勢を立て直した汐が、息を吸いながら向かってきていた。
「喚き散らすんじゃねえよ!ワダツミの子!!」
妓夫太郎は身体を捻って宇髄を躱すと、振り向きざまに左手を振り払い、汐の刀をいとも簡単に弾き飛ばした。
紺青色の刀が弧を描いて飛んでいくのをしり目に、妓夫太郎は持っていた鎌を汐の顔面に向かって振りぬいた。
「汐--ッ!!」
吹き飛ばされながらも炭治郎は、汐の名を叫ぶように呼んだ、その時だった。
硬いものがぶつかるような音が響き、妓夫太郎の表情が強張った。
そこには、妓夫太郎の鎌を歯で噛んで受け止めている汐の姿があった。