第99章 役者は揃った<肆>
――ウタカタ 陸ノ旋律――
――誘引歌(ゆういんか)
汐から奏でられる旋律が、妓夫太郎の脳をかき回し全ての神経伝達を狂わせ、いくら攻撃を放っても全て汐に向かうように仕向けられていた。
その歌を聴いたとき、宇髄は何故ワダツミの子の存在が謎に包まれていたのか、少しだけ理解できた。
(人間どころか鬼まで手玉に取るとは、無惨の奴が恐れるのも、存在が隠されてたこともなんとなくわかった気がするぜ)
その歌の恐ろしさを感じつつも、宇髄は汐が鬼を惹きつけているうちに、妓夫太郎の頸を取ろうと接近した。
「お兄ちゃん後ろ!!柱が来てるわ!!何やってんのよ!!」
宇髄の存在を認識した堕姫が叫ぶも、汐の歌に魅了された妓夫太郎には届かない。
(本当はあんたなんかに見てもらうなんて、まっぴらごめんだけれど。この状況をひっくり返すためにも、今だけあんたにはあたしだけを見てもらうわ)
汐は歌いながら攻撃を躱し続け、その隙に宇髄の刃が妓夫太郎の頸に迫った。
「お兄ちゃん!!」
堕姫が叫んだ瞬間、彼女の眼前で獣のような咆哮が響いた。
「うおおおおお!!!」
堕姫が視線を戻せば、伊之助が刀を後ろに持ったまま文字通り猪のように自分に向かって突進してきていた。