第98章 役者は揃った<参>
(消え・・・)
宇髄はすぐに頭を動かし、妓夫太郎の姿を捜した。その位置はすぐにわかった。妓夫太郎は屋根の上にいる雛鶴の方へ向かっていた。
「雛・・・」
すぐさま向かおうとする宇髄の眼前に、堕姫の帯の壁が降りその行く手を塞いだ。
「天元様!私に構わず鬼を捜してくださ・・・!」
雛鶴が最後まで言葉を発する間もなく、妓夫太郎の骨ばった手が彼女の口を塞いだ。
「よくもやってくれたなあ。俺はお前に構うからなああ」
彼は雛鶴の口を握りつぶさん勢いで、その濁った眼を彼女に向けながら地を這うような声で言った。
「雛鶴ーーーーっ!!!」
宇髄は妻の名を叫びながら帯の壁を斬り裂こうとするが、帯は生き物のようにうねり彼をその場から縫い付けるように動けなくさせていた。
『天元様』
宇髄の脳裏に、かつて彼女が言った言葉が蘇った。
『上弦の鬼を倒したら一線から退いて、普通の人間として生きていきましょう。忍びとして育ち、奪ってしまった命がそれで戻るわけではありませんが、やはりどこかできちんとけじめをつけなければ、恥ずかしくて陽の下を生きて行けない。その時四人がそろっていなくても、恨みっこなしです』
「やめろーっ!!」
宇髄の悲痛な叫び声が当た有に木霊し、その光景は吹き飛ばされた汐の目にも映っていた。
鬼の姿を見た瞬間、汐の中に再びどす黒い殺意がヘドロのように沸き上がった。