第97章 役者は揃った<弐>
そのまま汐は横に転がり、宇髄は凄まじい速さで妓夫太郎の攻撃を捌いている。
「汐!!大丈夫か!?喉は・・・!」
炭治郎は倒れている汐に素早く駆け寄ると、狙われた首筋を慌てて確認した。そこには傷一つない、真白な喉笛があるだけだった。
「平気よ。二度も同じ手に引っ掛かるもんか」
ほっと胸をなでおろす炭治郎だが、同時に咄嗟に動けなかった自分に激しく腹が立った。
(何をしてるんだ。足を引っ張っている・・・!!)
だが、後悔する暇もなく二人をとてつもない鬼の気配が包んだ。そして上を見上げた瞬間、轟音と共に天井を突き破って無数の堕姫の帯が降りてきた。
それは引幕のように汐達をそれぞれ分断する。
(これは、あの女の帯!くそっ、帯が邪魔で前が見えない!!)
苛立つ汐の頭上から、堕姫の甲高い笑い声が響き渡った。
「アハハハハッ、全部見えるわ、あんたたちの動き。兄さんが起きたからね、これがアタシの本当の力なのよ!!」
堕姫は帯を高速で振り回し、善逸と伊之助を翻弄しながら下で戦う汐達の妨害も行っていた。
善逸と伊之助は必死で攻撃を回避するものの、よけきれなかったのか身体にはいくつかの切り傷ができていた。
「うるせぇ!!キンキン声で喋るんじゃねぇ!!」
堕姫の耳障りな声に、伊之助の憤慨する声が響く。それを聞いていた汐は(全く持ってその通りだわ)と、帯を捌きながら思った。
「ギャーギャー、ギャーギャー喧しいんだよ!!盛りの付いた獣かテメーは!!」
汐も怒りのあまり荒い口調で叫ぶが、それを嘲笑うかのように妓夫太郎の笑い声が響いた。