第96章 役者は揃った<壱>
炭治郎は禰豆子を抱えつつ汐の手を引き、先ほどの場所へ戻った。
攻撃を受けた際に千切れてしまった肩ひもを結び、眠っている禰豆子の口に壊れてしまった口枷の代わりに縄を噛ませた後箱に戻すと、炭治郎は汐の手当てをしようと服に手をかけようとして踏みとどまった。
それは以前に、同じように負傷した汐の手当てをしようと、服に手をかけた時に手ひどい一撃を喰らってしまった事があった。
緊急事態だったとはいえ、年頃の少女の服を剥こうとしたことに変わりはなく、善逸だったら確実にあの世に叩き込まれていただろう。
だが、汐はためらう炭治郎の前で隊服の釦を外すと、彼に背を向ける形で服を脱いだ。いつもならありえないことに炭治郎は面食らったが、汐の上半身から流れ出る血を見て息をのんだ。
そしてすぐさま、先ほど手当てをしてもらった時と同様に汐の手当てをしていく。その間、汐は一言もしゃべらず、黙って炭治郎の手当てを受けていた。
(汐、どうしたんだろう。あの時からずっと様子がおかしい。さっきも後悔と苦悩の匂いがしたし、汐は自分が悪くないのにため込んでしまうところもあるから――)
「炭治郎」
ふいに名前を呼ばれた炭治郎は、肩を震わせ手当てをしている手を止めた。
「ど、どうした汐。痛くしすぎたか?」
炭治郎が思わず聞き返すと、汐は振り向くことなくそのまま口を開いた。