第12章 二つの刃<弐>
そのころ、狭霧山では
『ここにいたのか、真菰』
名前を呼ばれて真菰はゆっくりと振り返る。そこには、宍色の髪に狐の面をかぶった少年、錆兎が静かにたたずんでいた。
真菰はその姿を一瞥すると、再び顔を前に向ける。
そこには真っ二つに割れたまま水を落とし続ける滝があった。あの日、汐が試練で割ったものだ。
『ねえ、錆兎。二人は、汐と炭治郎はアイツに勝てるかな?』
真菰の声は滝の音にかき消されることなく錆兎の耳に届く。錆兎はしばらく黙り込んだ後、小さくつぶやいた。
『わからない。努力はいくらしてもし足りないんだ。それはお前もわかっているだろう』
『うん・・・でも・・・』
真菰は歯切れの悪い言葉を紡ぐ。それは自分もわかっている、けれど納得できていない。そんな様子さえ感じた。
その理由が推測できた錆兎は、そっと彼女の隣に立った。
『信じたいんだろう?あいつを』
『・・・うん』
真菰は小さくうなずいた。そしてもう一度、割れた滝を見つめる。その前で必死に刀を振る汐の姿を思い出して。
『・・・勝って、汐。信じてるから・・・』
真菰の声は、風に乗って空へと流れていった。